ゴーシェ病について


 (2015年8月6日更新)

ゴーシェ病とは?

1882 年フランスの医師フィリップ・ゴーシェ(Philip Gaucher)によって最初に発見され、ゴーシェ病と名づけられました。当時は脾臓の異質な腫瘍という概念でしたが、その後、1920年代にはゴー シェ病の2型、1950年代には3型が位置づけられました。

 

ゴーシェ病はグルコセレブロシドという

糖脂質を分解する酵素であるグルコセレブロシターゼの機能が悪いため

グルコセレブロシドが分解されず肝臓、脾臓、骨髄などの細胞に蓄積して

肝脾腫、骨症状を主症状とする 先天性代謝異常症のうち、ライソゾーム病に分類される病気です。

また、グルコセレブロシドに類似した物質であるグルコシルスフィンゴシンが脳の細胞に蓄積する事により神経症状が現れます。

どのようにしてゴーシェ病と診断されるのか??

ゴーシェ病は、ほとんど症状が分からない軽症な病型から重症な病型まで様々です。特に型では、症状が非常に多様です。症状が軽度で緩やかに進行するため受診に至らない場合もあれば、重症度が高い場合もあります。症状の進行は予測が難しく、あらゆる年齢で発症する可能性があります。

 

ゴーシェ病と疑われたら

触診などで肝脾腫などの症状や血液検査で貧血や血小板の減少の確認、神経症状などから疑われます。

その後、皮膚の一部を採り培養して皮膚細胞での酵素の働き(=酵素活性)がどれぐらいあるかを調べます。

酵素活性が低下していればゴーシェ病と確定診断されます。

遺伝子を解析しゴーシェ病特有の変異がないか調べます。

ゴーシェ病は治療法がある病気です!

ゴーシェ病は、非常に稀な病気で、その症状は個人差がありさまざまです。

ほかの病気でもみられる症状が多いことから、診断することが難しい病気であるといわれています。
しかし、放っておくと着実に進行する病気であることから、専門医による診断・治療を受けることが大切です。現在、酵素補充療法が国内外の医療の場で一般的な治療法として行われています。

酵素補充療法により、肝脾腫、貧血、血小板減少、骨痛・骨クリーゼなどの骨症状をうまくコントロールし、QOLQuality Of Life:生活の質)を維持・向上させることができます。

症状

肝臓や脾臓に蓄積
肝臓、脾臓の腫れ、そして、脾臓機能の亢進により貧血、血小板減少などの症状が現れます。
骨髄に蓄積
骨皮質が減少し骨変形、骨粗しょう症、骨壊死などが生じ、骨が折れやすく、また骨痛が現れます。
脳に蓄積

神経症状(けいれん、発達遅延、斜視、嚥下障害、呼吸障害など)を引き起こします。

※必ずすべての症状が現れる訳ではありません


タイプ

ゴーシェ病は国内で約150名と非常に稀な疾患です。

病型は大きく分けて3つのタイプがあり、神経症状の有無とその重症度によって分類されます。

 Ⅰ型 (非神経型)  約60名~

幼児期から成人(080歳)と幅広い年代で症状が現れ神経症状が無い事が特徴です。

主な症状は、肝臓・脾臓が大きくなる、貧血や血小板の減少、骨症状などです。

進行の程度や重症度は人によってさまざまです。

Ⅱ型  (急性神経型)  約40名~
乳児期(生後35ヵ月)に神経症状が現れ、かつ、その進行が早いのが特徴です。神経症状としては発達遅延、斜視、口を開けにくい、けいれんなどです。
Ⅲ型 (亜急性神経型)  約50名~

神経症状を伴いますが、神経症状は型よりゆっくりと進行するのが特徴です。

この神経症状に加えて肝脾腫を伴います。症状進行の程度は人によってさまざまです。

はじめ型と診断され、経過途中で神経症状が出現し、型と診断が変更される場合もあります。

型は、さらにa型、b型、c型の三つの亜型に分類されます。

  • a 肝脾腫に加えて、若年発症の神経症状(小脳失調、ミオクローヌス、痙攣、斜視など)を呈します。     
  • b 核上性水平注視麻痺を唯一の神経症状とし、それに加えて重篤な臓器症状を呈する亜型であり、早期発症の型と鑑別が困難な場合があります。 
  • c 水頭症、角膜混濁、心弁膜石灰化など極めて稀な臨床症状、合併症を発症する亜型です。

※その他、ミオクローヌスてんかんを主徴とし、肝脾腫の程度は軽い臨床亜型も報告されています。


ゴーシェ病と遺伝

ゴーシェ病は、グルコセレブロシダーゼという酵素をつくる遺伝子の変化が原因で起こります。この遺伝子は常染色体上にあり、「常染色体劣性遺伝」と呼ばれる形式で伝わります。

染色体は、遺伝子の乗り物といわれ、染色体上にはたくさんの遺伝子が乗っています。ヒトの細胞には、2本ずつの対になった23対(46本)の染色体があり、このうちの22対の染色体は男女ともに同じで、「常染色体」と呼ばれます。残りの1対は男女で異なっており、「性染色体」と呼ばれます。男性にはX染色体とY染色体が1本ずつ、女性にはX染色体が2本あります。


グルコセレブロシダーゼ遺伝子は、常染色体の1番染色体に存在します。常染色体は2本ずつあるため、

グルコセレブロシダーゼ遺伝子も2つあり、片方の遺伝子に変化があっても、もう一方の遺伝子が必要な役割を果たすため、ゴーシェ病の症状は現れません。このように、「変化のある遺伝子」を1本もっており症状が現れない人は、「保因者(キャリア)」と呼ばれます。そして、両方のグルコセレブロシダーゼ遺伝子に変化があると、必要な役割を補うことができないため、ゴーシェ病の症状が現れます。

【監修】  東京慈恵会医科大学附属病院 井田博幸教授